私は料理に関しては何も出来ない。 本当に何も作れない。 唯一できるのは、今のインスタントのラーメンなり焼きそば。 単にお湯を注ぐだけのもの。 昔、大学に通うため上京した時のこと。 初めての東京。 初めての一人暮らし。 部屋は四畳半。 小さなキッチンが付いているだけの、ぼろアパートだった。 とにかく何も料理が出来ない息子のことが気がかりだったのだろう。 田舎を離れる時に、一応鍋とか茶碗や箸も別便で送ってくれた。 そして、暫くしてまた荷物が届いた。 中を開けると、インスタント・ラーメン30袋にお菓子が入っていた。 有り難い。 やっぱり親だ。 心配で仕方がないのだ。 当時のインスタント・ラーメンは、改めて紹介するが、袋から麺を取り 出して煮立ったお湯に入れてほぐすというもの。 (おふくろ有り難う) 感謝しつつ早速食べることにした。 鍋を出して、お湯を沸かして、麺を入れた。 麺を煮込む独特の香りが 狭い部屋に充満する。 麺がほぐれてから、どんぶりに移そうかどうしようか 迷った。 待てよ。 どんぶりに移して食べると、鍋とどんぶりの両方を洗わなければ ならない。 じゃ、鍋のままで食べちゃえってなもんで、テーブル代わりの コタツに新聞を敷き、鍋を置いた。 具は何もない。 ネギもメンマも何もない。 鍋は熱いので、手が触れないように注意して食べ始めた。 うーん。 まずい。 とにかくまずい。 そりゃそうだ。 何も入ってないんだから。 半分くらいはなんとか食べたが、もうだめ。 しょうがない。 まだ熱さの引いてない鍋をキッチンの下に置いた。 そのまま10日間くらい忘れてた。 ある日学校から帰るとなんか変な臭いが部屋に 漂っている。 どこからだろうと臭いの発生元へたどり着いた。 キッチンの下の 鍋からだった。 鍋をおそるおそる覗いてみる。 (えっ?!) 麺の上にうっすらと白いカビが……。 (気持ち悪うー) そこで鍋に蓋をすることにした。 これで臭いは一応シャットアウト。 それから3週間、またしても鍋の存在すら忘れていたところへ、おふくろが上京 してきた。 そして部屋を掃除に来てくれた。 掃除の最後に、この鍋は?ときた。 (えっ! あちゃー、やばい!) おふくろの驚きと、あきらめと、あきれた感が充満した声が響く。 そして、しこたま怒られた。 見ると鍋全体がカビで覆われてしまっている。 ズボラ人間の真骨頂!!!一覧へ