あれは小学校の2年生くらいの夏休みだったろうか。 よくラジオ体操をやりに学校へ行く前に、友達と待ち合わせて近所の林に 寄ってから向かったものだった。 その林で何をするかというと、早朝の時間帯ならカブトムシやらクワガタを 捕まえられるかも知れなかったからだ。 そして、友達と集まっては各々のカブトムシやクワガタを持ち寄って、箱を土俵に 見立てて戦わせるのだった。 私はもっぱらクワガタだった。 さて、その夏休みのある日のこと。 姉と同じ部屋を使っていたが、姉はひよこを10羽くらい、蓋にいくつもの空気穴を 作った大きな箱で飼っていた。 その朝は姉が出かけるので、ひよこの箱の蓋はきちんとしておくこと、さらに部屋の ドアは必ず閉めてから遊びに行くなら行ってよと何度も注意を受けた。 もちろん「分かってるよ」と私は答えた。 その日の3時頃遊びから戻ると、姉がすっ飛んできた。 すっごい形相で。 いきなりこっぴどく怒られたが、こちらは訳が解らず突っ立っていた。 「ちょっと! これを見なさいよ!!」と連れて行かれた我々の部屋は惨憺たる 状況であった。 ひよこが1羽もいない。 あたり一面ひよこの羽だけが散乱している。 どうやら私が部屋のドアを開けたまま遊びに行き、侵入してきた近所の猫に ひよこが食べられた跡だった。 呆然とする私の隣で、姉は私に怒鳴り散らした後大きな声を上げて泣き出した。 実は、私はひよこの箱の横に置いてあった蚊取り線香の小さな箱が気になっていた。 大事な私の戦闘要員である、クワガタを入れていた箱だ。 当然その箱もひっくり 返っていた。 (クワガタも食べられたのかなあ?)と思った。 翌朝、母の寝所から「ぎゃー!!」という大きな母の叫び声が聞こえてきた。 そして、すぐに私の名前が呼ばれた。 行ってみると、母が壁際に避難して 「なんとかしなさい! その虫」と引きつった表情で叫んでいる。 (あっ、居た! 僕のクワガタ) 母に叱られながらも、内心はクワガタが見つかって嬉しい思いでいっぱいだった。 母はこういう虫ものにめっぽう弱かった。 私のアルバム「愛」に収録の「毛布」をお聴き下さい。 母への心情を謳った曲です。一覧へ