長姉は本当にいたずら好きで、何度となく騙されたりもしたが、 憎めない愛嬌のある姉だった。 だったと書いたのは、もちろん存命ではあるが、50代半ばに 脳出血で倒れて以来半身が不自由になり、今はほとんどの生活を 車椅子で過ごしているから。 さて、子供の頃は二段ベッドで同じ部屋を使っていた。 姉が上段だった。 私が布団にもぐり込むと、決まって上から声がかかる。 「もう寝た?」 「ん? まだ起きてるよ」と私。 「そう。 じゃこれあげる」と言うや、上からするすると紐に ぶら下げられたカゴが降りてくる。 カゴの中には白い丸められたチリ紙が。 「ありがとう」と私は眠い目をこすりながら、その丸いチリ紙を手に取る。 すると「どういたしまして」という姉の声とともにカゴが、するすると 上に引き上げられていく。 私は、ニコニコしながらチリ紙をそーっと広げてみる。 中には何も入っていない。 (あれ?)と思い、さらに広げてみる。 何故か紙が濡れている。 他には何もない。 「ねえねえ。 何も無いけど」と上段の姉に向けて言った。 姉はいつも以上に楽しそうな声で。 「あはは。 それは私の鼻水」ときた。 「うわー!!」と叫んで私は紙を放り投げる。 上段の姉から「じゃ、おやすみ」という声がして終了。 私が小学校の1年生。 姉が5年生の頃の出来事。 今思うと楽しかったなあ。 姉よ、リハビリ頑張れよ。 そして、またいたずらをしてくれ。 待ってるよ。一覧へ