私が歌舞伎ファンになったのは、親父の死をきっかけにおふくろを 歌舞伎座へ連れて行くようになってから、というのは昨日のブログにも 書いた。 それは私の親父も自分の母親(私の祖母)に何度か歌舞伎を見せた。 という話を聞いていたからに他ならない。 その親父が酒を飲み交わすと涙を流さんばかりに、笑いながら話してた おばあちゃんに関するエピソードがあった。 おばあちゃんはある年代から耳が遠くなっており、耳の遠い人特有で かなり大きな声で喋る人だった。 そして太ってることもあって動きがかなりスローだった。 そんなおばあちゃんと歌舞伎を観ていたある日の出来事。 なにせ歌舞伎の舞台は1幕1幕の時間が長い。 やおらおばあちゃんが「どっこいしょ」と言いながら、超スローな動きで 立ち上がったらしい。 舞台では役者が一生懸命演じてる最中、1人の 老婆がいきなり立ち上がる。 それも結構前の方の席だったらしい。 慌てた親父が「おふくろ、どうした!」と言ったところ、おばあちゃん 悠然と「おら、しょんべん行ってくる」との答。 それも役者を凌ぐような 大きな声で。 なにせ田舎で生まれ育った明治女。 当時は女性も自分を「おら」と呼んでた。 そして、極め付きは「しょんべん」 この時ほど、さすがの親父も恥ずかしい思いをしたことはなかったと、酒を 飲みながら楽しそうに話していた。 そんな親父も居なくなって、私がおふくろを歌舞伎に連れて行ったのも数年前まで。 おふくろも段々と遠距離の移動が出来なくなってきた。 今度は地方公演で近くに来た時に連れて行ってやろう。 私のアルバム「愛」に収録の「毛布」と「あなたのおかげ」をお聴き下さい。一覧へ