さあ、ここからは古舘一郎さんが仮にその場にいたらという想定で、 古舘節のプロレス実況中継風にお届けしましょう。 - ジャン -(場面転換の音) さあ、これは大変な状況になってるぞ。 この広範囲に亘るゲロの海。 車両通路のかなりの面積を占めているではないか。 しかし意外や意外、臭いはほとんどしない。 これは不思議だ。 これだけ大量のゲロをまき散らしておいて、一体どういうことだ? だから車両の人たちは、もちろん私も含めて、時々そのゲロの海に目を やってしまうのだ。 それが人間の性というものだろうか。 怖いもの見たさということなのか。 さあ、次の駅に到着したぞ。 一見スマートなサラリーマンというのか、 ビジネスマンが乗り込んできたぞ。 なんとその手にはスマホを握って いるではないか。 そう言えばですね。 あまりにも歩きスマホによる事故が多発しているので 確か禁止令というのか、通達というのか、発表されたにも係らず、まだこの 有様。 実際この国の将来はどうなっていってしまうのでしょうか。 どう思いますか、みなさん。 それはそれとして、この男性、そうですねえ年は30歳前半でしょうか。 電車に乗り込む時だけチラッと足元に目を落としたが、車両に乗り込むと、 またすぐにスマホに目をやった。 おーっと! そのすぐ先には大きなゲロの海が広がっているぞ! スマホに夢中で、ゲロの海には気が付いていないようだ。 あと3歩…あと2歩…さあ、そろそろ床の色の違いが視界に入って、気が つくのだろうか。 そのまま進むと危ないぞ! と思っている間もなく最後の1歩を…右足を前に出したぞ。 その着地点にはゲロガ…。 あーっ!! ついにゲロの海に足を下してしまった。 これは凄いことになるぞー! おそらくゲロの上にしりもち、そして両の手は体を支えるためにゲロの 上に着くのだろう。 そのあとはどうやって家に帰るのだろうか。 後々きっと後悔するのだろう。 いやいや、次の瞬間、彼はゲロに足を滑らせバランスは崩したが、転びはしない。 なんという運動神経の良さであろうか! これが若さというものなのか! 私の想像を超えた肉体の若さなのか! おや? 何かが宙に舞っているぞ。 スマホだー! そう、左手に持っていたスマホが、衝撃に耐えられずに空中を 飛んでしまったのだ。 スマホくらいはゲロの海に真っ逆さま、どうやってゲロまみれのスマホを拾い 上げるのか、大いなる期待を抱かざるを得ない、この状況。 私はただただ横から眺めているしかない、この状況。 おーっと! 次の瞬間、再び驚きの光景が…。 なんとスマホはゲロの海を飛び越して、何一つ汚れのない床に緊急着地したぞー! 素晴らしい! 凄い! そしてどこか残念な気持ちになるのは、実況中継を行っている私だけでしょうか。 やや無念さを残しながら、これで中継を終わります。 -中継終了ー てなわけで、この青年… ついてない? ついてる?一覧へ