今や大型の家電量販店があちらこちらにあり、昔に比べると そのサービスも含めて本当に便利な世の中である。 そんな中で冷蔵庫がどんどん大型化している。 かなりの収容 リットル数である。 大学に行くために上京した際に、すぐ上の姉が逆に田舎へ戻るので 冷蔵庫を譲り受けた。 1人住まい用の冷蔵庫で、冷凍室は無いが 氷を作るホントに小さな部屋の付いているだけの代物だった。 ところが私は料理がな~んにも出来ない。 料理をやろうという気が全く無い。 自炊なんて言葉は私の辞書には どのページをめくっても絶対に見当たらないのだ。 したがって、いつしか冷蔵庫は部屋の飾り、上に物を置いておく台に 「へーんしん」(変身)していた。 さて、私の高校時代からの無二の親友も同じく上京した。 そして彼は私と違って、一応自炊をやろうとしていた。 もっとも、これとて大した自炊ではなかったが……。 じゃあ、俺の部屋よりもお前の部屋に置いた方が使い勝手があるねと いうことになり、冷蔵庫を彼の部屋に運ぶことにした。 小さいとはいえ、まさか電車で運ぶわけにもいかない。 お互いに金の ない学生、割り勘にしてタクシーで運ぶことにした。 なぜ割り勘か…本来ならば物を頂く方が負担しそうなもんだが、そこは お互いのメリットを追求する。 友人は冷蔵庫が手に入るというメリット。 私は、本当に金が無くなった時には彼の部屋に転がり込んで飯を食いに 行くぞという約束の下、タクシー料金の割り勘である。 そして実際年に数回、2泊3日、朝夕食付き、風呂なしの都内小旅行が 行われるようになったのである。 タクシーをつかまえて、二人で後部座席に冷蔵庫を横にして運んだ。 時間にすれば30分弱、料金を支払い、冷蔵庫を彼のアパートの前で 車から降ろす。 (ん???) 友人と顔を見合わす。 彼も気がついた。 氷を作るための、白い縦横に仕切りのある容器を冷蔵庫から取り出すのを 忘れていた。 30分弱の間に溶けてしまった水が流れ出して、後部座席のシートを 濡らしてしまったのだ。 顔を見合わせ、お互いの目を見る。 「ここは言わずに降りよう」と意見が一致している。 学生だから格好良く「お釣りは結構です。」とは言えない。 きっちり釣銭を受け取り、でもシートを濡らしてしまったお詫びを込めて、 二人で頭を下げて「有り難うございました。」と言った。 運転手さんニコニコとしていた。 「地方出身の学生さんはいいねえ。」と思っていたんだろうね。 47年ぶりに、改めて言います。 運転手さん、本当に申し訳ありませんでした。一覧へ