これもかなり昔の話になるが、約40年前に中東はカタールという国へ 2ヶ月ほど行ったことがある。 技術・技能の人たち10人と共に総勢 11人で現場生活をした。 下手な英語だが、居ないよりはましだろうと 彼らを引率することになった。 おそらく今でもそうだろうが、入国審査が大変厳しい国で、一つでも 犯罪歴のある人間は書類の段階で断られる、ビザを頂けない、そんな 国である。 11人のうち、7人が鳶工と呼ばれる人たちで、一番若い方で私よりも 一回り年齢が上で、現地に着いて同じ宿舎での共同生活が始まったが、 ほぼ全員の背中に彫り物があった。 それを見た時は正直どきっとしたが、皆さん顔に似合わず面白い人たちで、 7人の親方は着いた日から3~4日間、「俺はダメだ。 食えない」と 言い、持参したインスタント・ラーメンだけで酷暑の中の重労働をこなして いた。 またある人は2日めから「いつ帰れる?」と私の顔を見る度に言う。 (結構繊細な人が多いんだ) こんなか細い俺が楽しいのに…皆さんお疲れ様。 宿舎では何の楽しみもない。テレビやラジオもない。まあ、仮にあったと してもアラビア語じゃ解らないし……。 ある日、近くに星空映画館が来た。 全員で小型バスに乗って観に行った。 めちゃくちゃ大きなスクリーンがあり、駐車場がそのまま館内である。 車に乗ったまま観ている人もいれば、表に出て見入っている人、様々である。 我々もよもやカタールの地において映画鑑賞が出来ると思わなかったので、 ウキウキしながら行った。 映画が始まった。 インド映画だ。 会話はインドの言葉、ヒンズー語? そして流れる字幕は ミミズのはったようなアラビア語。 (ありゃりゃ、これじゃ全く意味が不明) でも、カタールの人たちは大いに喜んでいる。 ストーリーは悪党集団が女性を人質にするようなもの。 かなりの美人女優 だったことだけが救いという感じであった。 そして、正義の味方が現われて彼女を無事に救い出すという、ありきたりの 物語である。 そう、勧善懲悪だ。 ラストシーンにおいて、正義の味方が画面に大きく映し出された時は、満場 いっぱいの拍手、拍手である。 歓声があっちこっちで上がっている。 (ん?! どこかで見た光景だぞ) と即座に思った。 そうだ! 小学生の時に観に行った月光仮面と同じだ! 楽しみも少ない地で、皆さん実に純粋な人たちなんだぁ!一覧へ