私は犬が好きだ。 犬は名前を呼んだだけで、尻尾を振って駆け寄ってくる。 一方猫は? あくまでも私の感覚だが、えさを与える時だけ寄ってきて、 あとは1日中、外をほっついているというのがイメージである。 子供の頃から犬を4匹飼わせてもらった。 というよりも、戌年だった 親父が勝手に犬を買って(あるいは貰ったのか?知らないが)きてしまう ものだから、誰かが面倒を見なくちゃならない。 そこで必然的に私が見るはめになったのだ。 最初の犬、これはスコッチ・ テリアという小型犬だったが、飼い始めてわずか2年足らずで居なくなって しまった。 後日縁の下で死んでいるのを発見したが、寿命の短さを自分でも 分っていたのだろう。 2匹目は純粋なスピッツのオス。 これが結構やんちゃな犬だった。 まあ、よく吠える。 表通りに犬小屋を置き、その脇につないであったので、 人が通るたびに吠える。 さすがスピッツ。 昔からよく吠える犬種という ことで定評である。 ある時に、あまり風体のよろしくないオヤジが噛まれたと怒鳴り込んできた ことがあった。 吠えはするがむやみに噛むような犬じゃないことは自分でも 分っていたので、おかしいなとは思ったが、おふくろがどうやらお金を渡して 一件落着したらしい。 「あたり屋」ならぬ「噛まれ屋」だったのではと今でも思っている。 なにしろ昭和の30年代のこと。 おかしくはない。 ある日、私の友だちが遊びに来た。 家で遊び、表で遊び、夕暮れが迫ってきたので友だちが帰るというので、その スピッツの犬小屋の傍で立ち話をしていた。 「この犬、噛まない?」と彼。 「大丈夫。 ちょっかいを出したり、いじめたりしない限り噛まないよ」と私。 そして立ち話が暫く続いた。 会話の途中、「あはは…」と笑いながらふと足元に視線を落とした私の目に飛び 込んできたのは、彼の足に、片足を上げている我が家の飼い犬の姿。 あーっ! おしっこ!! 友だちは気がついてないようだから、黙っていよう。一覧へ