群馬のある町で、訪問した客先で帰りのタクシーを呼んだ。 数分後に来たタクシーに乗り込むと女性ドライバーだった。 行き先を告げて、声をかけた。 「珍しいですよね。 東京では時々女性の運転手さんて見かけるんだけど、 申し訳ないけど地方ではね。」と。 「そうですね。 私の他にもう一人かな?」と返事が返ってきた。 しばらくその地の雑談をしていたら、運転手さんから質問が来た。 「ところでお客さんの趣味は何ですか?」 (よっしゃー。 俺の喋りたいところだぞ)と内心ほくそ笑んだ。 「私の趣味はね、曲作り…作詞作曲なんですよ。」 (さあ次はどんな質問がくるかな?) 「そうですか。 私もね……趣味があるんですよ。」 (ん? それだけ? もっと驚いてよ) 次は大体どんなジャンルの曲とか、定型の質問が出るはずなのに来ない。 仕方がない。 訊いてあげるしかない。 「うん? どんな趣味ですか。」 「歯磨きなんですよ。」ときた。 (歯磨きぃ…?) 「毎日お風呂に浸かりながら、約30分シャカシャカやるんです。」 「30分?」と私は頓狂な声を上げた。 詳しく訊けば、歯ブラシを3種類、歯磨き粉というか練りチューブも3種類 あって、1本の歯ブラシに約10分、3本で30分間やるんだそうな。 昔からやっていて、もうそれが日課と言うのか完全に趣味の世界なんだそうな。 そしてそれが気持ちいいらしい。 30分間シャカシャカしないと1日が終わる 気がしないとのこと。 初めて聞いた趣味の世界である。 世の中にはなかなかユニークな方がいらっしゃる。 なーんだ、それが故の趣味の質問だったのだ。 にしてももう少し、私の趣味についても喋りたかったなあ。 少々物足りない10分間の乗車だった。一覧へ