以前、知人の別荘に誘われて行った。 別荘と言ってもごく普通の民家で、 当時神奈川にお住まいだったが、なんでも将来リタイアをしたら、そこへ 移住すると言っていた。 福島はいわきの手前の湯本という駅で列車を降りた。 車で山道を登る。 6~7軒の集落のうちの民家であった。 車を降りる、空気が素晴らしい。 夏休みを利用して行ったのだが、涼しい。 窓を開けていれば、それで十分。 全く暑さを感じない。 さて、居間に座るやまずはビールで乾杯。 空気も美味いから、なおのこと ビールも美味い。 しばらくすると、知人のひざに直径20cmくらいの亀が乗って来た。 短い足を思い切り伸ばしてひざに乗り、ちょこんと座っている。 聞くと陸亀という種類の亀らしい。 特段水の中で飼わなくても良いんだそうな。 犬や猫と同じように水飲み場を用意しておけばいいらしい。 (へえー、亀も立派にペットになるんだ) 私のひざに乗らないかと、自分のひざをポンポンと叩き「ほら、ここへおいで」 と言ったが、勿論言葉が解るはずもなく来るはずがない。 やがて、知人が席を立った。 亀はのそりのそりと歩いて玄関へ。 (だいじょうぶかな? 下へ落ちたら甲羅が割れたりしないもんかなあ) と考えていた矢先、「ガチン」という音が玄関から聞こえてきた。 案の定亀が 踏み外して土間へ落っこった。 20秒ほど待ったが、一向に戻ってこない。 そりゃそうだ。 40cmくらいある玄関から家に上がれるわけがない。 ビールを置き玄関を見に行くと、土間に完全に裏返しになった亀が必死に体を 起こそうと手足をバタつかせている。 (うーん。 亀ははたして自分の力でひっくり返ることが出来るのだろうか?) 玄関に腰を下ろして2分ほど観察をした。 15秒ほど手足をバタつかせては 5秒ほど休む。 亀も疲れるんだね。 その間、2,3回亀と目が合った[ような気がした]。 最後はどうにも起き上がりそうにないので、手で亀を家の中に入れてやった。 言ってみればレスキュー隊みたいなもんだね。 知人が戻って来たので、また座布団に座りなおしてビールを再開。 そのうち亀が居間に戻ってきて、飼い主には全く目もくれず、私に向かってきた。 「ほらほら、さっき裏返しになってたのを起こしてやったんですよ。 多分その 恩返しに挨拶に来るんですね。 へー、亀も賢いなあ」 と感心をしながら会話を交わしていた。 亀が私の座布団に上がってきた。 「やっぱり、そうだ! 助けてやったので、その御礼に私のひざに乗るんですよ。 これはきっと」と私。 知人もニコニコしながら缶ビールを口に運んでいる。 さあ、いよいよひざに…と思った瞬間、あぐらをかいていた私の足の親指に痛みが 走った。 なんと。 亀が私の親指に噛みついたのだ。 「いたーい!」と私が飛び上がった。 亀の逆襲だったのだ。 そう、裏返しになって苦しんでいる姿をニヤニヤしながら眺めていた私への逆襲だ。一覧へ