娘が幼い頃、幼稚園の年長くらいから小学校の4年生くらいまで。 よく娘の手を引いて近所の本屋に行った。 当時住んでいたマンションから歩いて10分くらい。 幼い子の 歩みに合わせてたので、もう少しかかったろうか。 その本屋さんは個人経営とすれば割と大きいのだが、おやじさんが 1人でやっている。 そのおやじさんが、この上なく愛想がない。 にこりともしない。 ちょうど娘が小学校へ入るかどうかという時期の日曜日。 最初は喜んで子供本のコーナーでいろんな本を手にしていた。 5~6分たった時に、手にしていた本を置いて突っ立っている。 どこか娘の様子が変だ。 娘の傍に行き、「どうしたの? 具合でも悪いの?」って訊いた。 娘は首を横に振り「ううん」と答えるだけ。 でも様子がおかしい。 そして、「パパ、まだおうちに帰らないの?」ときた。 ほーら、やっぱり変だ。 なにかある。 「もうすぐ帰るけど、どうしたの?」と重ねて尋ねる私。 娘は観念したらしく、「うんちしたい」ときた。 (あちゃー、まいったな) と思いつつも、個人商店だからトイレの表示もない。 ましてや当時は なかなかトイレを借りられる時代でもなかったし、しかも笑顔さえ 見せたことのない店主である。 しかし、それよりも娘だ。 私は意を決して入り口付近のレジに居る 店主の所へ。 「すいません。 娘がトイレをしたいと言うもんですから、お借りして いいですか?」と恐る恐る訊いた。 「あ、いいですよ。 子供は急にもよおしちゃうからね」と、そして 「そこを抜けた扉の奥ですから」と店主。 (なーんだ。 ものの道理が分ってる、良い人じゃん) それからというもの、その本屋へ行くと娘は必ずと言っていいほど トイレへ行くのだった。 一種の条件反射だな、これは。一覧へ