さて学生時代のヨーロッパの旅の続きである。 その会で知り合って特に気の合ったのが2人いた。 そのうちの1人…A君は口から生まれてきたような、よく喋る奴だった。 将来の志望はジャーナリスト。 自宅マンションに招待されたことがあるが、彼の部屋のスペースというスペースには 本がびっしり詰まってる。 流石ジャーナリスト志望だけのことはある。 この3人でイタリアだったかなぁ、自由時間に街を散策した。 あっちへ目をやり、 こっちを眺めて歩いていたら、先を歩いていたA君が素っ頓狂な声を発した。 「なに、これ!」 見ると、日本で言えばリヤカーの荷台に何やら妙な物がいっぱい籠に入れてある。 木の実を乾燥させたものだったが、その色と形が異様だった。 日本では見たことが ない、そんなものだった。 私ともう1人は、A君の声を聞くやいなや同時に叫んだ。 「やばい!」 しかし時すでに遅し。 瞬間的にA君は木の実を3つくらい手に取って、1つずつ 鼻先に持って行き、ニオイを嗅いだ。 そしてまた一言。 「なにこれ?」と言うやいなや、1つずつ籠に戻したのだ。 しかもよせばいいのに 戻したあとの指を舐めている。 日本で云う屋台のオヤジがエラい剣幕で怒り出した。 しかしイタリア語なので まるっきり分からない。 怒ってるのだけは分かった。 それを感じたA君、ただひたすら謝っている。 何度も何度も腰をくの字に曲げて 「アイムソーリー」を連発。 その様子があまりにも滑稽で、それ以降日本へ帰るまで 我々はA君のことを「ソーリー人形」と呼び続けた。 もう今では音信不通となってしまったのだが、元気なんだろうか。 ソーリー人形君は。一覧へ